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テマに戻ったイザは、さっそく雨宮との接触を図る。幸い、雨宮の自宅は都内にあったため、連絡さえ取れば会うのはさほど難しくはなかった。
今回は、民俗学に詳しい圭吾に同席を頼む。
二人は、雨宮からの希望どおり新宿・歌舞伎町にあるバーで待った。
約束の時間を少し過ぎて、バーのドアが開くと、灰色のくたびれたスーツを着た貧相な男が一人、トボトボと店内に入ってきた。写真で確認してあったので、間違いない。雨宮だ。
圭吾が男に向かって手をあげると、雨宮はすぐに気づいて、奥の席に座る二人のところへとやってきた。
雨宮はぺこぺこと頭をさげながらイザの向かいの席に腰掛ける。それまで、イザの隣に座っていた圭吾は立ち上がって。
「何か、頼みます? 雨宮さん」
人なつこい笑顔を浮かべながら、店のメニューを雨宮に見せつつ自然な動作で彼の隣に座った。
雨宮自身は気づいていないようだが、このように相手を囲む形で座るのは、何かあったとき……たとえば、逃げようとしてもすぐに対処できるようにするためだ。また、相手に心理的プレッシャーを与える意味もある。
イザと圭吾は、共に仕事をするようになって長い。このあたりの役割分担は、阿吽の呼吸で自然と身についていた。
「ああ、じゃあ……」
雨宮は圭吾から渡されたメニューを無防備に眺める。
注文したものが届く間、イザと圭吾は軽く自己紹介をした。とはいえ、名前もプロフィールも偽のものだが。
ウイスキー・ソーダ割のグラスが手元に届くと、雨宮は喉が渇いていたのか、それとも緊張のためなのか、こくこくと早いペースで飲んだ。
しばらく各々の飲み物を傾けていた3人だったが、最初にイザが口を開く。
「雨宮さん。今日、お呼びだてしたのは、この前も電話で話しましたが…」
「ああ。全国民俗学研究委員会の件で、話を聞きたい、と。そう言っていたね……」
雨宮は、薄い琥珀色の液体が半分ほどになったグラスを両手で包むように囲むと、視線もあげずに淡々とした口調で答える。
「はい。以前、そこに所属していたことがあると」
「……ああ」
雨宮の口調は重い。積極的に話したいわけではない、そういう雰囲気がありありと感じ取れる。
「単なる、学術研究のための機関だよ。それ以上でも、それ以下でもない。どこで、誰にそこの話を聞いてきたか知らないが、面白いことなど何もない。ただ、学術保存のために全国から資料を集めていただけの場所だ。そして、当初の目的を果たしたので、解散した。もう5年以上前の話だ」
雨宮の話を、ストロベリーヨーグルトカクテルなる見るからに甘ったるい飲み物をストローで啜りながら聞いていた圭吾が口を挟む。
「でも、なんだって、そんな機関が気象庁に? 文部科学省やなしに」
「さぁ…ほかの省庁のことは知らん。なんで、そんな仕事を気象庁がしていたのかも……私は今は別の部署で仕事をしてるが。上の指示というのは、時に、まったく下々には不可解なことがあるものだろう」
と、雨宮の話は、なんとも要領を得ない。
「……雨宮さん」
イザの、一際低い声音に、雨宮は顔をあげ、イザを見た。
イザは、雨宮をその黒い瞳で見つめる。睨むでもなく、威圧するでもなく。ただ、静かに。
「雨宮さん。今、テマと呼ばれる地域で、何が起きているか、ご存知ですか」
イザの抑揚のない声音に、しかし雨宮の表情がわずかに揺らぐ。
「人が、次々に消えています」
「人、が……」
雨宮の目に影が浮かぶのを、イザは見逃さなかった。この人は何かを知っている。そう確信を抱く。
「はい。何人消えたのか、総数がわらかないほど。速やかに、けれど、ほとんど証拠も残さず静かに人が消えていっています」
「俺らの知り合いも、何人か消えとる。その現象を調べているうちに、行き着いたものの一つが、全国民俗学研究委員会なんや」
「……」
雨宮は、再び視線を手に持ったグラスに落とすと押し黙った。
「教えてください。あなたが知っていることを。私たちは、一刻も早く、この神隠しを止めたい」
イザの言葉に、しばし間を置いてから、ようやく雨宮が頷いた。
「……わかった。教えましょう。とはいっても、私が知っているのは、私が委員会を離れる5年前のことまで。それ以降のことは、あくまで推測に過ぎない」
顔をあげた雨宮の目には、それまでと違い、小さな意思の光のようなものが見てとれた。
「ことの発端は、今から何十年も前に起こった、ある公害訴訟なんだ」
その公害が明らかになったのは、戦後の混乱期を抜け、この国全体が飛躍的に経済的成長を遂げようとしていた時代。ある町で、原因不明の呼吸器障害が集団的に発生した。その原因として、町の近くに設けられたコンビナートから排出される煤煙が疑われたが、会社側は自社の責任を認めようとはせず、住民側の訴えを無視し続けた。その対立状態は、住民側が民事訴訟によって全面勝訴を勝ち取る10数年後まで続けられる。
とはいえ、この公害訴訟自体が、直接、今回の神隠し事件と関係があるわけではない。契機となったのは、住民側と会社側が対立関係にあった時期の、とある出来事にあった。この頃、世論は住民に同情的な立場をとり、会社側とそれを擁護する業界に批判が集まっていた。そして、会社側に対して抗議行動を起こす者も出るに到る。その中には、有志からなる僧侶たちの姿もあった。僧侶たちは、企業主らを「ただ物欲に供し、五欲にとらわれ、一切衆上の生命を蝕むこと、飢えたる猛虎より甚だし」と断じた。そして、僧団をなし、黒地に白文字で「呪殺」と染め抜かれた旗を手に会社の門前で呪殺祈祷を行ったのである。
これだけであれば、笑い話で終わったかもしれない。
しかし、祈祷の結果なのか、それから1年ののちに、公害会社の幹部が次から次へと原因不明の死に到った。
「この国は、明治以降、呪術的なものを公には一切否定してきた。唯一、皇族に関するものが儀礼的に残っているだけだ。こちらは、宮内庁の管轄にある。けれどね。元来、呪術を管轄してきた公の機関はもう一つあるんだよ」
「それが……気象庁?」
圭吾の言葉に、雨宮は頷く。
「そうだ。元々、古来の呪術というものは、気象や自然現象を知り、その知識をもとに将来を占う占星術から端を発している。風水や陰陽というのも、その一種だ。したがって、気象庁の前身をずっと辿っていくと、平安時代の中務省陰陽寮に行き着くんだよ」
「ああ……確かに…」
圭吾が相槌をうつ。
圭吾は興味深そうに話を聞いているが、イザは実はこのあたりの話にはあまり興味はない。というか、ちょっとついて行けない。指でグラスを回して手遊びしながら、一応聞くそぶりはしていた。
「宮内庁が、皇室がらみの公的呪術を扱っているとしたら。さしずめ、気象庁は私的呪術が管轄っちゅうことやな」
「そう。そうなんだよ」
話のわかる相手をみつけて、嬉しいのか。笑顔を浮かべて雨宮は話を続ける。さっきまでの、嫌々な口調が嘘のようだ。
「元々は気象庁は、全国のそういった伝承レベルの儀式から禁呪といわれるものまでも管理し統括するのも仕事だったんだ。しかし、明治以降、そういった非科学的といわれるものは人々の間で否定され、公で扱うこともできなくなった。GHQに統括された戦後は、ますますその風潮は強まった。そして、呪術について人々も政府も何ら興味を無くしていた時、さきほどの僧団による呪殺事件が起こった」
「それで……巻き返しが起こったんや。公害事件のあった頃やと…まだ官庁にも政府にも戦前生まれは多い。今とは比べ物にならないくらい、そういう伝承的なオカルトへの抵抗感って少なかったやろなぁ」
「そうなんだ。やはり呪術を……特に禁呪といわれる危険なものは、政府できっちり管理すべきだという議論が起こった。そして生まれたのが『全国民族学研究委員会』だ」
ずずっと、圭吾はストロベリーヨーグルトカクテルをすする。
「それで、その委員会が、全国から危険そうな呪術を調査して集めだした。茅葺教授らんとこから長屋王の変に関する資料を持ってったんも、そのためやな」
圭吾の口から出た『長屋王』の名を耳にし、雨宮は息を呑んだ。
「なんで、その名を……」
圭吾と雨宮の会話を、ぼんやり眺めていたイザだったが、雨宮の様子の変化に思わず突っ込みを入れる。
「貴方こそ。その名前に、何か思うところがあるようですね」
「い、いや……神隠しと聞いて、まさかとは、思っていたが……」
雨宮は、じわりと頭に嫌な汗が滲むような感覚を覚え、息苦しそうにネクタイの結び目に指を入れて緩めた。
「あんたも気づいたみたいやけど。今回の神隠し事件。その、『長屋王の変』で使われたとされる呪術が応用された可能性があるんや」
「……そんな、まさか……いや、でも……」
俯かせた目を見開いて、雨宮は呟く。
イザと圭吾は、雨宮が再び話し出すまで黙って待っていた。
その沈黙に促されて、雨宮は氷がとけて水ばかりになったグラスをくいっと煽ると、一息ついてようやく言葉を紡ぎだす。
「委員会の仕事は、ただ危険な呪術を調べ、管理するだけではなかったんだ。全国から、いや、世界中から集めた資料を元に、研究を重ね、改良を加え、より使いやすく、より強力なものへと発展させていった」
「それって……聞いてると、まるで兵器か何かでも開発するようやな」
雨宮は小さく苦笑を浮かべる。
「そうだな。この国じゃ、銃火器の開発はほとんど認められていないから。けれど、こういった非科学的なものであれば、非難を受けることもない。実際に人を殺傷する能力があったとしても、だ」
「しかも……呪術による殺人は、現在の法律では罰することすらできない」
というイザに、雨宮は頷いてみせる。
「とはいえ。本当に、私たちの研究していた呪術にそれだけの力があるのか……それは誰にもわからなかった。実際に人間相手に使用したことなどなかったからな。しかし、あれは、5年前……そう。私があの委員会を去る直前のことだ」
不景気の折。
行政改革の一環として、省庁は業務の見直しを迫られ、不採算・不必要と判断された部署は容赦なく切り捨てられていった。表向き、学術資料の収集を業務としていたあの委員会も、リストラの候補にあげられた。
「もちろん、私たち委員会の人間は反対した。しかし……どうやって省の内部や国民に説明すればいいというんだ。本当は、呪術の開発をしています、なんて。気象庁の内部でも、呪術の有用性を理解しているのは、ごく一部の人間だけだ。私たちは、歯軋りする思いで組織改変の様子を見守っていたよ。これが時代の流れならば仕方ないって」
ゆっくりと静かな口調で、雨宮は続ける。
「しかし、委員会には、それを良しとしない者もいた。行動派と呼ばれる奴らだ。彼らは、自分たちが研究しているものが、真に効力のあるものだと証明してみせると息巻いて、省内外の人間が見守る中、ある実験を行ったんだ」
雨宮の話を聞いていて、イザはふと思い起こす事があった。それは、ユージの話の中に出てきた事。
「もしかして、それって……どっかの刑務所で起きたっていう行方不明事件?」
イザの言葉に、雨宮は驚いて目を丸くする。
「どこで、その話を……。その場にいた関係者以外、極秘扱いになってるはずなんだが」
「いや、それは、ちょっと知り合いに……」
雨宮は小さく息をつく。諦めを吐き出すように。
「そこまでご存知なら、隠し立てしても仕方ないな。全部話しましょう。そうです。その実験というのが、例の『長屋王の変』で用いられた呪術を元に開発した技術で、人を消し去ろうとする実験だった」
「それで、その実験は上手くいったん?」
「半分は……」
半分?と、イザと圭吾が同時に尋ねる。
「ええ。被験者となった囚人は、体半分が消し飛んだんです。顔半分と左手足、それに胴の一部が」
「うわ……」
想像して、圭吾は気持ち悪そうな声をあげる。普段、平気で人を殺傷する圭吾のそんな反応に、イザは不思議そうな顔を向けるが、雨宮の手前、何も突っ込まずにおいた。
「しかし。呪術が物理的に作用を及ぼすものであるとの、証明はできた。それで開発はいっきに勢いづいて、完全に人を消すことができるようになるまで、さほど時間はかからなかったさ。主に、身元のわからない無国籍の囚人たちを実験台にしてね。今、どこの刑務所も強制送還させる宛てもない外国人犯罪者で溢れている。犯罪者を減らすのに、ずいぶん貢献したよ」
イザと圭吾の出自を知らない雨宮は、事もなしに言ってのける。一瞬、イザたちの表情に剣呑なものが走るが、雨宮は気づくことはなかった。
これが、一般の感覚なのだ。この国の国民の。日本人の生活を脅かす、不法移民の外国人。彼らのせいで日本人は安全と仕事を奪われたと、感じている。いなくなればいいのにと普段は公言することはなくても、心のどこかで思っている。それが、テマの住人に対する差別感情に繋がっている。
「けれど、私は次第に怖くなったんだよ……自分が研究していたものが、そんな恐ろしいものだったなんて今更ながら思い知らされて。私は自ら望んで委員会から外れ、別の全然関係のない部署へと異動したよ。それから間もなくして、委員会は消滅してしまったんだ。噂によると、省から独立し民間から資金を得てさらに開発を進めている、とか……」
「民間資本が投入されたとたん、設備も人員も豊富になって、いっきに開発が進んだ……っちゅうことは、大いに考えられることやな」
「そして、それを大々的に利用しようとする奴らが現れた。テマの再開発で利益を受ける財界の奴らだ」
「そんで、この神隠し騒ぎが引き起こされたっちゅーことか。上手い具合に、話が繋がってきたな。でも、どうやったら、止められるんやろな……」
事件を引き起こした相手は、政府と財界……あまりに対象が大きすぎる。
イザは、テーブルに頬杖をついて虚空を睨む。
「……いっそ、霞ヶ関に爆弾でもぶちこんでやりてー」
呻くイザ。しばしテーブルに重い静寂が漂った後、意を決したように雨宮が口を開いた。
「もし君たちが……本気で、神隠しを止めようとするならば……そのくらいのこと、しなければ無理かもしれない」
雨宮は、グラスの中身を一息に飲み干したあと、空になったグラスを苛立たしげにテーブルに置く。
「君たちは。呪術というと、呪術師が祈祷でもしてる姿を想像しているのかもしれない。しかし……現実は違う。私たちが開発していた技術は……呪術装置とでも言うようなものだった」
「呪術装置……?」
一体どういうものなのか、想像もつかず。圭吾は、怪訝そうに雨宮の顔を見つめる。
「ああ。呪術には、場を指定して切り離す結界、その結果内の対象者に呪術の効果を及ぼす呪詛、それからもう一つ、神がかり的な力をもった術者が必要になる。結界は、私が委員会に居た頃でも、特別な札などを用いて容易につくることができた」
イザは、圭吾がテマの街で見つけてきた、例のポスターを思い浮かべる。あのポスターには、長屋王の変の際に用いられたものと酷似した文字が印字されていた。あれが、結界を作る役割をしていたのだろう。
「それから、呪詛。これは私がいた当時は、直接対象者に呪詛の効果があるとされる言葉を聞かせることで行っていた。面白いことに、日本語を理解しない者に対しても、呪詛を書いた紙を見せることで同様の効果を持たせることができたよ。今は、どういう方法を使っているのかは、わからないがね」
呪詛を聞かせる……一体、どうやって対象者に呪詛を聞かせたというのだろう。テレビやネットは使えない。それでは対象を特定できないからだ。神隠しを受けた人間は、もれなくその呪詛をどこかで聞くか目にするかしていたはずなのだ。一体、どこで…。
「そして。最後の、神がかり的な力を持った術者。これが、実は一番やっかいだった。私たちは、呪術の専門的知識はもっていても、超常的な力を持つ集団ではなかったからだ。現在は、宮内庁の管轄にあるごく少数やわずかな宗教関係者を除いて、ほとんどそういった力を保持する人材は失われている」
「じゃあ、刑務所の実験の際には、宮内庁あたりから人を借りてきたん?」
圭吾の問いに、雨宮はゆるゆると頭を横に振る。
「いや。それは色々とシガラミがあってできなかった。それに私たちは自分たちの力だけで術を完結させる道を探していたんだ。幸い委員会には全国から集められた私的呪術に関する情報が集まっていた。私たちは、それを一つ一つ精査していったよ。そして…みつけたんだ」
テーブルの上に注がれた雨宮の視線は、どこか遠くを見ているようだった。
「明治末期に、ある学者が研究していた論文をね。それには……呪術的な力を電気的な力で代用する方法が記されていた。私たちは、その論文をもとに研究を進め、ついに呪術者に代わる装置を発明した。その装置は、大人4,5人でようやく運べるほどの大きさの機械だったが、それを使って術を施せるのは、2、3日分の充電でようやく一人程度だった」
「2,3日かけて一人…」
イザは呟きながら頭を巡らせる。今回の神隠しで消えたとイザたちが考えているのは、数百人。どう計算しても、その装置だけでは数年はゆうにかかる。
「それじゃあ、計算が合わない。神隠しは、ここ3ヶ月ほどに集中して起こっている。それに……一度に大人数を消さないと意味がないんだ」
チサトの例のように、土地を相続させないために親類縁者もろとも消したとなると。時間的なラグがあると生存者の間で相続がおこってしまいかねない。もしそうだとしたら、そのせいでごく最近に所有者が変わった登記が多少なりともあったはずだ。しかし、イザとディンゴで虱潰しに登記を見てみた結果、そんな例は一つもなかった。どれも、数年前に所有者が亡くなったあとは、綺麗に国有地化されていたのだ。静かに、けれど確実に。
雨宮は小さく頷く。
「だとすると。よほど装置の性能があがったのか、……巨大な装置をいくつも作ったのかのどちらかだろう」
ちょうどそのとき、イザの携帯にメールが入る。イザが携帯を開くと、ユージの秘書・本庄からだった。メールの内容は、「例の委員会の現在の所在地がいくつか掴めたので、データを送る」というもので、そのメールの後にずらっと十幾つもの住所が記されていた。
「圭吾、お前、パソコン持ってるだろ。ちょっと貸して」
「ああ、ええけど……」
圭吾がカバンから出したパソコンを開いて、ネット上の地図画像に、本庄からもらった全国民俗学研究委員会の所在地を落としていく。
「これは……」
訝しげにしている雨宮と圭吾に、パソコンの画面を見せながら。
「現在の、全国民俗学研究委員会が活動していると思われる拠点です」
「君たちは、そんなことまで…」
驚きを露わにする雨宮。一方、イザと圭吾は画面を見てその表情を曇らせる。
「こんなに、広範囲にいくつも……これじゃあ、一つ一つ潰してくんは、大ごとやで」
所在地を表す点は、山手線沿線内部に集中している傾向はあるものの、十数か所がばらばらに点在していた。
このどこに、その装置があるのか判らない。もしかしたら、この全てに装置はあるのかもしれない。
「無理だろうな。一つを襲撃すれば、他の拠点は移されてしまうことも考えられるしな」
「じゃあ、全部一度に叩くしかないやん」
圭吾の言葉に、イザは苦笑を浮かべる。
「それができれば話は早いんだが…」
圭吾とイザ、それにゲンガ一家と、セイとハルカ。その面子だけでは、2、3箇所叩くのが関の山…。
ふと、イザの脳裏に、ディンゴの言葉が過ぎる。
『先月から、都心の夜間電気消費量が多くなってる。例年の同月期に比べて、1.3倍程度。でもね、原因が判らないんだ。そろそろ暖房も必要なくなる時期だし、今年は暖冬だった。むしろ、例年より電力消費量は減ってもいいはずなんだ』
(夜間電力消費量……)
先ほどの雨宮の話と符合する。術には、多量の電力を必要とするはずだ。それを夜間に蓄電することによって補っているとしたら。
(いや…神隠し事件自体…もしかしたら、夜間に大規模に行われてたのかもしれない)
イザは携帯を取り出し、アドレスから電話をかける。相手は、ディンゴ。
「あ、ディンゴ。あのさ。ちょっと調べて欲しいんだけど。都心の電力供給がどこから行われているかわかるか?」
公に公表されているデータだったので、すぐに調べはついた。
「そうか……わかった。ありがとう」
イザは、わずかに口はしに笑みを浮かべて、電話を切った。

 

 

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